マイナビ卒業生は今、どこで何をしているのかを追う「あの人は今」。今回は岸わか奈さんを取材しました。
原わか奈(旧姓:岸)さんは2008年にマイナビに入社し、転職情報事業部で東京・大阪・京都と営業を歴任。2度の育児休業を経て管理職に昇進した後、人事部門へ異動し採用広報に携わりました。2019年に退職後は、株式会社ワーク・ライフバランスにて働き方改革コンサルティング・講演・研修を手がけています。日本の「働き方」に向き合う原さんのインタビューをお届けします!(取材:羽田啓一郎)
第二子育休中の1年半が、すべての原点だった
―マイナビ時代のご経歴を教えてください。
2008年に転職情報事業部に入社して、東京・大阪・京都で営業を続けました。途中で2度の育児休業を取ったのですが、その期間の学びが今の仕事に直結しています。第二子の育休中に関西学院大学の「ハッピーキャリアプログラム」に参加したり、「育休MBA(現・子連れMBA)」の運営に携わったり、キャリアコンサルタントの資格を取ったり、社外との関わりがあったんです。
―積極的に動かれていたんですね!それがどのような学びになったのでしょうか?
自分がものすごく「井の中の蛙」だったことに気づきました。同時に、子育てしながら働いている人たちがいかに苦労しているか、ガラスの天井をリアルに感じているかを実感しました。当時のマイナビはグループ全体で1万規模でしたが、ワーママは300人ほどでまだまだ少数派で制度も十分ではなかった。だからみんな子育てとの両立に苦労していて「これ以上ハードワークになるなら課長より上には上がりたくない」となってしまっていたんです。
―確かに以前のマイナビはワーママは少なかった印象です。
復帰後に営業課長になってからも、ダイバーシティや働き方改革への強い問題意識は消えませんでした。その想いが形になったのが「ワーママカレッジ」です。育休中の人も呼んで、ロールモデルのプレゼンを聞く場を立ち上げ、予算もつけてもらって10人の有志で事務局を作りました。私が退職した後も仲間が引き継いでくれて5年ほど続き、今はダイバーシティ推進などの部署もできたと聞いています。
日本に蔓延る、「働き方」の問題
―退職後、株式会社ワーク・ライフバランスに移られた理由は?
働き方改革やダイバーシティのプロフェッショナルになりたいと思ったからです。社外からアプローチできる場所として、この会社はまさに自分が目指す方向そのものでした。2006年創業で今年で20年、働き方改革の必要性を日本で最も長く発信し続けているパイオニアです。2019年の働き方改革関連法の改正や、2022年の男性育休に関する改正育児・介護休業法改正の裏側にも、私たちのロビイング活動があります。
―今はどんな仕事をしているんですか?
企業や官公庁に対して、講演・研修・コンサルティングをしています。組織全体の意識と行動を変えることが主な仕事です。
―そもそも、日本人の労働観の根っこにはどこから来ているんですかね?
日本には人口ボーナス期と呼ばれる時代があり、1990年代にピークを迎えています。高度経済成長の時に、日本は男性が長時間、同質性を持って働くという働き方で富を蓄えることができました。その成功体験が、今もものすごく強く残っているんです。
男性が体力に任せてゴリゴリ働くことが、仕事で成功する近道だと思っている世代が今の50代・60代、つまり経営者層です。その人たちが制度設計をしているので、部下やこれから入ってくる世代にも同じ価値観が伝わってしまう。負のスパイラルが起きています。
―ワークライフバランスという概念、だいぶ浸透してきた気がするんですが、実態はどうですか?
認知は広がりましたが、誤解がまだ多いですね。一番多いのが「ワーク・ファミリー・バランス」と混同されていること。時短制度や介護休暇など、事情のある人への配慮施策だけをワークライフバランスだと思っている会社が多い。でもそれだと、独身社員は残業青天井のまま、という状態になります。職場に歪みが生まれ、本当の意味での助け合いも、組織全体の生産性向上も遠のきます。
―では本当のワークライフバランスとは?
全従業員で残業を減らし、定時内で働くことを本気でやることです。今、我々が政府に求めているのは時間外割増賃金の1.5倍化と、勤務間インターバル制度の義務化です。日本の残業割増は1.25倍で他国より安く、これでは企業側は新しく人を雇うより残業させた方が得になってしまいます。1.5倍になれば、短い時間でも働ける人を雇用する新しい発想が生まれます。
―勤務間インターバル制度とはなんですか?
前日に退勤してから翌日出社するまで、最低11時間以上空けてくださいという制度で、今は努力義務にとどまっています。例えば23時に会社を出て翌朝8時に出社すると、9時間しか空いていない。これでは心身の健康が保てる状態ではありません。こうした規定を各組織できちんと設けることをちゃんと法令化するように、私たちも政府に働きかけています。
「持続可能なハードワーク」という考え方
―個人的な話として聞くんですが、僕なんかは働くのが好きで残業を全く気にせず働き続けるタイプなんですが、この考え方は間違っていますか・・?
組織に属する場合、一人が長時間働いて成果を上げると「やっぱり長く働いた方がいい」となり、周りも引きずられてグレーな職場になっていきます。だから組織を主語で考えると、あまりいいことではないですね(笑)。個人の話で言っても、脳科学や睡眠研究を見ても、どこかで体に支障が出ます。今は気づいていなくても、じわじわ来ます。最近ですと高市首相の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」という発言があり、ハードワークをよしと主張する方々もいらっしゃいます。一生懸命働くこと自体は悪いことではありません。ただ、私たちは持続可能なハードワークという考え方を大切にしています。
―「持続可能なハードワーク」とは?
ちゃんと寝る。ライフの時間をちゃんと取る。すごく基本的なことです(笑)。ただ、それをロジカルに説明することが大事だと思っています。一人の人間の人生全体で考えてみてください。22歳で就職して60歳まで働くとして、30歳前後でライフイベントを迎えると、そこから20年ほどは家庭がある状態で働くことになります。さらにその後には平均10年の介護が待っています。つまり、青天井に残業できる時期は人生のわずか10〜20%ほどしかない。
―そう考えると、独身のうちに猛烈に働いて成長しよう、という発想も変わってきますね。
そうなんです。しかも時代の移り変わりは早く、生成AIもあります。独身時代にがむしゃらに身につけたものが、すぐ古くなることもある。だから、そこだけで無理に詰め込むより、人生全体を見て持続可能に走り続けられる状態を作る方が、長い目で見てずっと合理的です。
そもそも、働きたいと言っている人の「なぜ」を深掘りすると、「早く成長したい」「自分のキャパシティを広げたい」という別の目的が出てきます。その未来を手に入れるための手段が、長時間労働である必要はないはずです。
生成AIが来ても、「人を鼓舞できるのは人だけ」
―生成AIが普及して、組織や労働への考え方自体が変わっています。原さんはどう見ていますか?
タスクに分解できる仕事は、生成AIによってどんどん効率化されていくと思います。でもAIは人を鼓舞できないと思っています。人のモチベーションを上げるのは、人と人の対話だけ。心理的安全性の醸成も、お互いを理解し協働していくことも、やっぱり人にしかできません。
AIが普及すればするほど、働きたいと思えるかどうか、その組織に居続けたいと思えるかどうかが、今まで以上に大事になります。エンゲージメントの領域ですね。優秀な人を雇用し続けられるかどうかに、企業はよりフォーカスしていくはずです。人間関係のパイプを太くする対話の場づくりは、AIの時代だからこそ価値が増すと思っています。
マイナビ時代の成功体験が、今につながっている

―最後に、マイナビ時代の経験で今に生きていることを教えてください。
マイナビで営業課長と子育てとの両立に限界を感じた時、自分でやり方を変えました。残業を制限して、権限移譲して、褒めて伸ばすマネジメントをする。今では良いとされていることを10年前からやっていたわけですが、結果、私のチームはその年に「最も短い時間で最も成果を上げたチーム」として表彰されました。自分で無理を感じて、変えて、結果が出た。その原体験があるから、同じ思いを他の人にはさせたくないと思えます。だから今の仕事を、第一人者として続けていきたいと思っています。
―ありがとうございました!
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