マイナビ卒業生は今、どこで何をしているのかを追う「あの人は今」。今回は野上美希(旧姓長谷川)さんを取材させていただきました。
野上さんはマイナビに中途採用で入社し、人材紹介事業部の拡大に貢献した後に社会福祉法人風の森の経営に参画。労働環境が厳しいと言われる保育士の働き方改革を実行し、令和3年度東京都女性活躍推進大賞を受賞、そしてForbes JAPAN WOMEN AWARD 2023で12位にランクインしています 。
意外と知らない保育士の実態や野上さんの経営改革について興味深いお話を聞くことができました!
(取材:羽田啓一郎)
転職相談をしにいったら逆にスカウトされ、マイナビに入社
ー今日はよろしくお願いします!野上さんはマイナビの前はコンサルタントだったんですよね?
そうですね、私はもともと理系で分子化学を学んでいたんですが、大卒後はシンクタンク企業でシステムコンサルタントをやっていました。ただ、キャリアに悩んでいた時にキャリアカウンセラーの資格をとって人材業界に関心を持つようになったんです。そこから人事や採用関連の仕事を志願して異動して、その流れでマイナビに転職しました。
ーなぜマイナビに?まだ毎日コミュニケーションズ時代ですよね?
そこが不思議なんですが、当時はまだそこまで有名でもなかったのに何故か毎日コミュニケーションズの人材紹介に転職相談をしに行ったんですよね(笑)。そうしたら逆にスカウトをされまして。ちょうどその頃、人材紹介事業の立て直しを計画している頃で。
ー今ならまだわかりますが、当時の知名度の時に転職相談しに行ってスカウトされるのは奇跡ですね(笑)。
今思えば本当にご縁ですね。よく覚えているのが、最終面接の時に履歴書の写真を忘れて駅の証明写真ボックスで撮影して、出てきた写真を手で切り取って履歴書に貼って持って行ったんですよ。手で切りとっているからガタガタの写真で。「こんな汚い写真、初めて見た」と当時の中川社長に言われたのをよく覚えています。
ー古きよき時代ですね。そこから人材紹介事業の立て直しに奔走されたんですね。
そうですね、私が入社してから数年後に毎日キャリアバンクという別法人にもなって。私はその中でITエンジニアの人材紹介を担当していました。立ち上げ期は大変で毎日終電で帰るような生活でしたけど、社長賞や最優秀マネージャー賞なども受賞して会社から評価いただいている実感もあったのでめちゃくちゃ楽しかったですね。
ー充実した日々だったのに、どうして退職されたんですか?
直接のきっかけは私自身の妊娠です。私の夫は実家が家業として幼稚園経営をやっていたので、どこかのタイミングでいつか自分も幼稚園をお手伝いするのかな、とは思っていたのですが、自分の妊娠と家業の新しいチャレンジのタイミングが重なって、それなら一層のこと、幼稚園経営にフルコミットしようかな、と。それで2009年8月に退職しました。
ー家業の新しいチャレンジとは?
それまでは幼稚園しかやっていなかったのですが、子育て広場や民間学童など事業を拡大しようとしていたのです。今は保育園もやっていて、保育園だけで6園を経営しています。
保育業界の労働環境改革に乗り出す

ー野上さんは保育士の働き方改革で表彰もされています。保育園の労働環境は「大変そう」みたいなイメージはありますがよく知らない方も多いと思うので、保育士の働き方について教えてもらえますか?
私はマイナビ時代は体育会のブラックな働き方マネジメントをしていたので、今、私が働き方改革で表彰されたなんて当時の同僚からは笑われてしまうかもしれません(笑)。ただ、保育士の働き方って、いわゆる民間企業の会社員とは全然違うんです。子供は常に見ていないといけませんし、自分のタイミングでトイレに行くことも休憩をとることもできないんです。これはなかなか厳しいな、と業界に入って痛感しました。実際、保育士は自身が結婚して子供ができると退職する人も多く、そういうもんだという業界の暗黙の認識があった。そうした環境を変えたい、と思って改革に乗り出したのです。今でこそ働き方改革に乗り出す保育園も増えているのですが、私たちは8年前から始めていたので他よりも少し早いですね。
ー異業種から来たからこそ、保育業界の慣習に違和感を感じたのかもしれませんね。
そうかもしれませんね。保育園に限らず、今あらゆる組織が人手不足を訴えている時代ですが、 女性が長く働ける組織にしないと保育園経営も立ち行かなくなってしまいます。そこで組織改革を始めたのですが、すぐうまくいったわけではなくて4,5年はもがき苦しみました。たとえば、シフト制度や残業管理を厳しくするなど仕組みや制度を作ることはできるんですが、保育士を守る制度を優先して、子どもの教育をないがしろにするわけにはいかない。従業員としての保育士の労働環境と、サービスとしての保育の両方の質を高い次元で保つにはどうすればいいか・・・。そんな試行錯誤の連続でした。4年前くらいにやっとその両立が実現して、今は一般的な保育園の2倍の保育士がそれぞれ協力し合いながら働ける環境ができました。
自分たちだけではなく、業界全体の問題をどう改善していくか

ー2倍!下世話な質問ですが、それだけ人件費を支払っていて収支は成り立つのでしょうか?
保育園の収益は自治体からの運営費のみとなりますが、それだけではとてもじゃありませんが経営していけません。自治体の追加の補助金や助成金などを積極的に申請して経営に利用させていただいています。保育園業界では経営的な感覚を持っている人はまだまだ少ないのですが、私がファイナンスに強いのはマイナビ時代の営業の感覚が生きていると思います。でも、今の日本は都心部はマンション価格も高騰し、共働きをしなければ家計が成り立たない状況です。そうなると幼稚園ではなく保育園を選択する家庭も増えている。保育園ニーズが高まっているので、保育士の労働問題は私たちだけではなく業界全体で取り組まなければいけない状況です。
ーそれだけニーズが高まっているとビジネス的な感覚だと儲けるぞ!みたいなテンションになってしまうのですが、野上さんはあまりそういう感じでもないんでしょうか?
うーん、そうですね・・・。もちろん、マイナビ時代のように人生の中でガツガツ働いてたくさん儲けて、、みたいに働く時代も楽しかったし否定はしませんが、私自身はそれよりも世の中に貢献したい、もっとよい社会にしたい、という欲求の方が今は強いですね。私自身がこの業界に入ったのは妊娠がきっかけですが、この世界に関わることができて本当によかったと思っています。だって子供たちって、可能性しかありませんからね。
ー日本の未来のためには本当に大切な業界だからこそ、そこで働く人たちの労働環境は深刻な課題ですね。
はい、保育士に限らずエッセンシャルワーカーと言われる業界はどこでも同じだと思います。AIだなんだといってもその時その場にいないと成り立たない職業は大幅に生産性を上げることは難しく、どうしても労働集約的な仕事になってしまいます。処遇改善を訴えてもそれは税金から支払われる仕事である以上、世の中に対していかに大切な仕事かを訴え続けなければなりません。だから子供に関わっていない人に、いかに子供に関わってもらうかも重要な課題です。今、子供に関わっている人は日本全体で30%しかいないと言われています。自分の園だけでなく、業界全体を引き上げていかなければならないのです。子供と社会が一緒に関わりながら、インクルーシブな世界になれるよう、今後も頑張っていきたいですね。


